Mr. Kazuhiko Ishimura

Mr. Kazuhiko Ishimura

Mr. Kazuhiko Ishimura

Japan

President, CEO
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)

第2回ビジョンゼロ・サミットが日本で開催され、大変嬉しいと同時に大いに期待しています。私は、かつて民間企業の製造現場のトップとして安全衛生管理の責任者を長く務めていました。事故を目の当たりにしたこともあり、予防の大切さと同時に労働災害を無くすことの難しさも痛感してきました。また、「最終的には作業者への教育による安全意識の向上が重要である」という半ば精神論に陥りがちな従来からの安全管理の取り組みにも限界を感じていました。このような経緯から、作業者個人の意識というレベルにとどまらず、IoTなどの新しい技術を取り入れることによって、よりスマートな方法で労働災害・職業性疾病・危険要因をゼロにすることができないかと考えてきました。そうしたなかで、「技術開発も含めて新しい予防安全を実現しよう」というビジョンゼロの取り組みを伺い、大いに共感し、支持しています。

わが国が目指す新たな社会(Society 5.0)では、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合し、IoTで全ての人と物がつながるようになります。そして、あらゆる知識や情報の共有によって、新たな価値を産業や社会にもたらすことが期待されています。このような社会が進めば、労働の仕組みや形態も間違いなく大きく変わります。AIやロボットが定型作業を代替するようになり、製造・組立現場だけでなく多様な場面に人と機械との共存が広がることでしょう。リモートワークはさらに進化し、より多くの人が場所や時間に縛られず働くことが可能となり、仕事の流動化・最適化も進むことでしょう。このように変化する労働環境を考慮し、新たな視点で働く人の安全を考えていく必要があります。また、安全という概念を、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味する健康の観点や、幸福とも訳されるウェルビーイングの視点からも捉えることを忘れてはいけません。

産業技術総合研究所は、「社会課題の解決」をミッションの一つとしています。Society 5.0の実現とともに、これまでにない観点に基づいて労働者の安全・健康・ウェルビーイングを達成することは、まさに社会課題の解決に直結するものです。現在、産総研では、Society 5.0における働き方を想定して、人とロボットが安全に共存するための協調システムの構築や安全規格の策定、さまざまな判断に用いられるAIシステムの信頼性向上や品質評価などをテーマに研究開発に取り組んでいます。今後も産総研は、新たな社会における安全・健康・ウェルビーイングに、主に科学技術の側面から貢献していきたいと考えています。本サミットにおいて、多様な専門家・実務者の間で活発な議論が行われることを期待しています。